花田陵『デビルズライン』 単行本感想


web広告を見て「ラブ要素の多い吸血鬼ものなのかな」と興味を惹かれ、モーニング公式サイトで冒頭3話を試し読み、その後単行本を既刊9巻まで購入し、2017年3月13日に読了。マイノリティの受容だとか、知らないものへの不安と差別に対してどういうアクションを起こせるか、という社会のシュミレーションみたいな面もおもしろいと思っています。

ここの感想は9巻まで読んだ上で、1巻から自分の気になったところなどをねちねちと語っています。
本誌連載の内容は含んでいませんけど、9巻未収録分の冒頭1Pはちょろっと見かけた(2017/3/14時点)。

1巻 / 2巻 



デビルズライン 1 花田陵(講談社、2013年9月20日発行)

しょっぱな「表紙のカラー絵で画力を見誤って本文白黒絵を見て『あら』ってなるパターンだ」と思いました。パターンといってもこれ以前に食らったのは諫山創『進撃の巨人』だけですけど。決め絵や顔のアップは迫力あるのに、コマによって人物の体がやたらちみっこいの、かわいいよね。単語がふたつ以上くっついているカタカナのタイトルで、中黒(・)やその他記号もしくはスペース未使用なものを好ましいと感じる傾向があるので、本作はまずタイトルと章題のつけかたが好きです。

Line.1 ダークサイド
あとから思えば運命の出会いな回。恋愛漫画テンプレのひとつ「強引なキス」が発動しており、こういった合意のない行為に対してつかさはしっかりと「否」の線引きをしているのが話を読み進めていくとよく分かるため、翻って「最初にキスされたから安斎が気になった⇒それがきっかけで惚れた」というのだと、ちょっとしっくりこないな、とひっかかる。そもそもこの回でもすでに、告白されてお断りした秋村に合意なしで抱きしめられてから身を離すまでの数コマで、つかさがそういうのに特にときめくわけではないのが描かれている。だからいつが「その瞬間」だったのかってのは、しばらく巻を進めないと腑に落ちなかったのだけど、この時点で安斎がキスのあといちおう謝罪を入れているのは、ちょっといいなと思います。悪いことをしたらちゃんと謝ろう。それでチャラになるわけではなくても、謝罪は必要。安斎のほうはどうやら一目惚れだったらしいことがのちに分かりますが、このときが安斎にとって最初の吸血であり、たまたまその対象が好ましいと思っていた相手だったがために欲情とセットになったのを理解できていない。そのため、「血を吸いながらやりたいと思った(P35)」の後半部分(やりたい)は「つかさが好きだから」なんだけど、そこの切り分けができずにひたすら吸血が忌まわしいものとして刷り込まれちゃったらしいのが分かる。この Line.1はつかさと安斎の今後を予感させるような描写をなしとすれば、独立した短篇として読んでみてもしんみりと余韻があって切ないんじゃないかと思います。ところでクマのない安斎の顔は小綺麗でなんかものたりないですね。
と、「しんみり」でまとめたあとで気がついたのですが、秋村が吸血強姦致死事件を起こしたのは、つかさにフラれる前からなのかフラれてからなのか? でも印象が変わりそう。というかおそらく「フラレてから」な気がするので、そうすると「好きな人に好かれない」というありふれた不幸がきっかけでやらかすって、やっぱり秋村おまえはだめだ。いやしかし「フラれる前から」だとしてもだめか。だいたい「……でもつかさに彼氏がいないだけマシだよ/いたらもう立ち直れなかったと思う(P8)」という発言がやっぱりなんか怖い。つまり秋村はだめだ。
まあ最初の経緯がなんだったのか、合意の上での吸血欲発散のつもりがエスカレートしてしまった上での強姦致死だった可能性があれば……というところですが、そのあと続けてるし、うん、やはりだめだな。

Line.2 セーフハウス
ちょっとエロい夢を見て動揺するつかさではじまる、はじめてのおへや訪問回(お泊り未遂)。セーフハウスは本来の意味ではなく、安斎が「ほっとできる」つかさのへや(そしてコタツ)か。冒頭でつかさも安斎に対し少なからずセクシャルな接触を望んでいることが分かりますが、男女の欲求がイーブンに描かれるのはよいですね。そしてこの回で「キスされたから気になる」のはないよな、とつかさ自身によってきちんと言及される。さて、ミワコの「ほんとつかさって好きだのなんだの怖がるね(P42)」という発言から、これまでのつかさの恋愛事情をかんがえてみる。次回Line.3で、つかさが「好意」と「害意」をきちんと区別できているのは分かる。なので相手からの「好意」すら怖がる(ように見える)のだとしたら、恋愛感情にある程度つきまとう独占欲や支配欲といった暴力的な側面に敏感なのか。それとも、(秋村以外で)つかさにアプローチしてきた男が、「小さくておとなしくて言うことききそう」という「害意」をむき出しにしたやつばっかりだったのか。「怖がる」というのもミワコの視点だし、つかさ自身がその評価にしっくりきていないようだから、これは特に落としどころのない思考なんですけど。単に「恋愛にオクテだね」くらいの発言なのかな。ともかくこの回は、田丸夫妻が悲しいことにならなくてよかった。そして安斎は引き続きすなおに謝る。

Line.3 メリークリスマス
ナチュラルにおこたに INしている安斎さんにはじまり、手編みマフラーで〆る回。この時期までのジルと安斎との関係は「ときどきセックスもする同僚」でよいのかな。セフレというよりは同僚、そして同種の連帯感が先にくる。そしてゴミカスの落合である。こいつ居室ドアの窓に目隠ししてやがる。つかさは「好意」と「害意」の区別ができてる、と思ったのは、Line.1で秋村に頭に触れられたときと、ここで落合に雪をぱたぱたはらわれたときの反応がちがうからです。勝手に触るということでは両者同じだったんだけど、秋村にあるのは「好意」だったから、歓迎こそしないけど、ぞっとはしてない(まあその直後に安斎がきたから反応する間がなかったのもあるけど)。この落合の「拒否をしなかったらOK」という地獄のような認識、現実味がありすぎてきっつい。たぶん性暴力をふるう犯罪者はその相当数が犯罪だとも思っていない。で、これはたぶん第9巻およびその後できちんと触れられていくところなんですけれども、安斎が窓越しに服を乱されたつかさと目が合うシーン(P93)。おそらく漫画表現においてしばしば発生している「性犯罪の現場を『エロい』絵面として描く」という傾向から、このコマも逃れられていないように思える。思えるけれども、ここはおそらく「安斎の視界」として描かれている意味がのちのち回収されそうなので、ちょっと置いておく。なおP90-92での描かれかたは客観もしくは被害者であるつかさ視点での描写なので、ひっかかるところはありません。
ところで「性犯罪の現場をただしく暴力としてしか描かなかった」という点でヤマシタトモコ『花井沢町公民館便り』第2巻(講談社、2016年1月)が非常に正しく、題材が題材なのでこういう言葉を使うのも慎重になってしまうけど、端的にいって見事だし、よくぞ描いてくれたと思います。
もういっこ連想で別作品。つかさが「死んじゃう!(P95)」と安斎をとめるシーン、いや死んだっていいじゃん死ぬべきじゃんと思うところですが、これは田村由美『7SEEDS』でも暴行されかけた花(彼女)が暴行相手をぼこぼこにしてる嵐(彼氏)をとめたという回想シーンで「べつに死んでもいいのでは」「それ(死ぬこと)はかまわないけど、嵐に傷がつく」というやつですね。「あなたが殺人を犯してしまうのがいや」であって、「そいつが死ぬこと」にはもちろんなんの異存もないのである。清々しい。巻数が思い出せないのでうろおぼえ、出典明記してません。あとで追記する。
(追記)「嵐!/やめて/死んじゃうよ」「…別に/かまわないのでは」「そいつはかまわないけど/嵐に傷がつく」
田村由美『7SEDDS』第5巻(小学館、2004年9月)のP122でした。「のでは」はふきだしスミの書き文字です。このときの嵐の表情とせりふの間合いが書き文字と含めて「きょとん」というか「ぽかん」というか、「虚をつかれた」感じで好きです。なおこの5巻では嵐からの回想ですが、第15巻(2009年4月)では花の回想として同じシーンがでてきます。ちょっと寄り道が冗長になってしまいますが、この『7SEEDS』第15巻でもレイプ未遂が100%暴力事件として描かれていますね。『花井沢町公民館便り』との違いは、『花井沢町〜』では加害者が「暴力」ではなく「好意からのセックス」だと思いこんでいること、『7SEDDS』では加害者が暴力行為として、明らかに痛めつける意図を持って行おうとしたことだ。
「この人の中には何かいるーーー(P90)」とつかさが独白した落合の「何か」とは「自分がいいようにいたぶれる対象への害意」だし、「体の中に醜い鬼を抱えながら(P110)」と思う安斎が「醜い鬼」としているのは「好きだからこその欲情」で、そのふたつってまるでちがうものなんだけど、安斎はたぶんそれが同じものだと思ってしまってるから、自分を「汚い(P110)」と断じてしまう。ちがうよちがうよ。こっそり後頭部にちゅうしたこともちゃんと謝っているきみはいい子なんだよ、と思いながら読み返しております。

Line.4 パラドクス
フィギュアスケートのムーブメントの一種を指す「イナバウアー」ということばは「上体をそらすこととは無関係」という豆知識とセットで人口に膾炙したのではなかったのか回。2013年といえば2006年のトリノオリンピックから……7年も経ってるのか。7年たったらすでに豆知識のほうがぬけてしまって「上体そらし」だけがひとりあるきしていたか。そういえば去年(2016年)も大相撲で琴奨菊関が大きく上体をそらすことを「琴バウアー」だとかいわれていたな。まあ気持ちはわかる、すでに Ina Bauerという人名であることを剥奪された「イナバウアー」というカタカナ表記は、「イナ」はなんか文字の形からしてそりかえってる感じするし「バウアー」という音は無理な体勢で思わず出てしまう声みたいな感じするから。え、しない? ともかく共感は示すがあの体勢につけるべきキャプションは「レイバック」でしかなく、ぜんぜん「スケートみたい(P143)」じゃないのだよ、安斎。本筋とまったく関係ないところでこんなに文字数をさいてしまった。P122で安斎の北海道時代の回想らしき1コマ入るけど、これはよく分からない。のちに第2巻の書き下ろしでつかさとニアミスしていたことが分かるのだけど、ここは「以前つかさと逢っていた」描写ではなさそうだし。おりょうさんはいいですなー。お鍋おいしくてなにより。この回で安斎は自分の吸血衝動がすべての相手に向けられているわけではない、という気づきを得るけども、このことはまだフォーカスされない。いま読むと、背景におりょうさんの職場での殺人事件と、ラストにゼロナナの登場があって不穏にはなるが、全体的にはほのぼのとスキンシップが高めでした。

Line.5 ヘッドショット
アーガイル柄タイツをよそゆきと見抜ける男安斎が、告白したら狙撃された回。タイトル通りなら死んでいた。ところで危機管理をかんがえるとこの話の安斎とつかさはそれぞれつっこみどころがあって、安斎は鎮静剤が「あと1本」状態だけどそりゃ「あと5本」時点くらいでストックを持っておいたほうがよかないかと思うし、つかさは訪問者がだれか確認してからドアを開けるべきである。まあそれで致命的な状況に陥るっていう作劇ではぜんぜんないのですけど。ゼロナナの回想で、このときはまだ名前不明の森澤がでてくる。この時点では鬼がどうこう以前に交際相手の娘(幼年)にも手を出す、ただの下衆に見えますね。

Line.6 モンスター
安斎は自分が「鬼である」というだけで殺されることを、さほど不当とは感じない。でもつかさを傷つけられると、即座に相手に殺意を抱く。ひきつづきゼロナナの回想のなかでの森澤、やはりただの下衆である。そして「この程度の傷 血を舐めればーーー(P211)」という発言から、この時点で作中世界でも極秘であるはずの情報を持っていることが示されてる。ゼロナナの「好意を装って近づき/血を吸う機会を窺っている……(P207)」という糾弾に、安斎は自分の現状を重ねただろうか。そういえば Line.2時点では「……血の味なんかさっさと忘れろ情けない(P50)」と、つかさが気になる自分の行動を「吸血したい」なんだと思おうとする節が見えた。でももう「おまえが好きだ(P198)」と分かっているから、そこは揺らがなかったかな。ラスト数ページでハンスがひょうひょうと登場、全体的に白くて誰何には頓着なく名乗るけど苗字中華系の名前欧米風でそのうえ安斎とおなじ鬼とヒトのハーフだっていうし、しばらく見学していたらしい発言は不穏だし、ものすごく素性が不明。「無邪気かつ残酷で最終的なラスボス位置のキャラ」かしらとか思いました。

(2017/3/14)

自分は1巻/2〜4巻/5巻/6〜9巻と4日に分けて読んで、1巻の初読終了時点では、最初にきっかけになった「ラブ要素」がまるまると満足いくものだったので、続きも読もうーと思ったのでした。


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デビルズライン 2 花田陵(講談社、2014年4月23日発行)

本体表紙・裏表紙(カバー下)のSNSネタ。安斎のTwitterが鍵アカなのもこまかいと思うけど、自分は「ミワクのミワコ」がツボに入りすぎて、これを見たあとはミワコの登場シーンのたび「ミワクのミワコ」と心のなかでつぶやいています。

Line.7 アウトオブコントロール
はねた相手が被疑者のゼロナナじゃなければたいへんなことになっていた回。安斎がどうやら過去に完全に理性を失った鬼を見たことがあるらしい、ということが示唆される。で、巻数を先まで読んでから気づいたけれど、混濁した記憶(夢)のなかのちび安斎の左肩にあるのは「赤組」を示すリボン、みたいなものなのかな? 第1巻の引きで、ハンスが敵役になるのかな、なんて思ったのだけど、今回で彼がなんていうか、非常にバランスのとれた人格であることがわかる。「要するに/母親の彼氏がろくでなしで/しかもたまたま鬼だったってだけの話でしょ(P14)」これはまったく、その通りで、それ以上でも以下でもない。母親の彼氏=森澤がどういう人物で、ゼロナナ=那々子との関係性がどういうものであったかはもっと巻を進めないと判明しないので、ハンスが聞いていたゼロナナの発言から抽出できる事実は「母親の彼氏がろくでなしだった」というそれだけなんである。そのあと暴走しはじめた安斎を見て、ゼロナナに逃げるようにいうので、あ、このひと真っ当なんだなと当初の印象を修正しました。

Line.8 アンダーコントロール
アウトオブコントロールだった安斎に対照するように、アンダーコントロールなハンス。でも人の上に乗ってはいけない、失礼ですから。P55でドイツ語しゃべっているので、どっちかの親が中華系ドイツ人なのかとか思ってた。非常に抑制のとれた人格であるハンスと、だれにでもフラットに接するつかさの会話はテンポがよいです。ここでのハンスのフリップ芸が好き。「気が変わった?(P60)」とか書くな、失礼ですから。ハンスの反応と独白で、鬼とヒトとのハーフが自然環境で発生することは起こらないらしい、という状況が見えてくる。 Line.1で安斎がハーフであることを知るわけだけど、それが作品世界でどれだけ珍しいのかの判断材料がないので、なんの気なしにわりと存在しているもんだと思ってました。しかしより注意深く読んでいるひとであれば、Line.3の柳とジルの会話から、鬼とヒトの生殖をまっとうするのは相当ハードル高そうなことが察せられるので、安斎の両親はどうなってるのかなどと考える材料が撒かれていますな。女性側がヒトだと母体が無事でいられそうにないから鬼なのは母親のほうなのかな? 女性がヒトの場合は父親である鬼は吸血欲をコントロールできてたってこと? とかね。まさにこの種の疑問をこの巻で安斎自身が抱くわけだけれど。

Line.9 プランB
自分がすでに知っている知識をもとに的確に情報を集め無理のないプランを立てるものの、プレゼン相手の倫理観がハードルになっていると見るや文句も言わずすぐにほかの策を考えることを提案する。つかさが「根っからの『一般人』(P77)」であることも、そうであると認識するだけでそこになんの評価もしない。ハンスはほんとうにバランスがいい。ハンスの生育歴が穏当でなかったことはこの先を読んでいるので知っているから、その環境でどうやったらこんなにバランスよく育つんだろうと思います。初読時はこの回以降、テロリストたちの顔、呼び名、本名、警察無線の班名と人名、といった情報を整理しきれずに、でもとにかく状況が動いていくのであわわ〜〜〜とハイスピードで読んでました。読み返すと状況がよく分かる。漠然と、プランBというのは「鬼を怪我させて我を失わせ、ヒトを襲わせ殺させる」なのかなと思っていたので、P96-97の見開きで「そっち!?」となった。読み返すとP73で「標的の視野を確認」と言っているので、なにかを見せようとしている意図は描かれているんだな。あと鬼は鬼の血(自分の血)を見ても我を失わないし、吸血で傷が回復するという事実は一般に知られてないので、理性を失わせヒトを襲わせたいなら傷つける相手はもちろん当のヒトってことになる。ジルの反応から、鬼は直接現場にいなくても「ヒトの血」をそれと認識できるのか? なんとなく視覚より嗅覚がポイントになりそうな気がしてた。でもおそらくここは単純に「ヒトが傷つけられて流れた血」という認識で見ているからか。画面越しに「これはフィクションです」と断って実際の流血を見ても反応はしないのか。

Line.10 アイラブユー
あ、マスクそこから上下分離するんだ?の回。冒頭からハンスの状況判断とその後の措置が的確なので、またもやハンスageをするしかない。ところで前述のとおり初読時はカメラマンの顔が Line.9で出ているゼロヨンと同一であることに気づいてなかったので、単にこのカメラマンはものすごく無礼な人なんだと思っておった。状況判断が的確だったのはつかさもそうですね。Line.7で「多くの鬼は若い女性を狙う(P27)」とあり、ここでつかさがかばったのは小学校低学年っぽい男の子、つまり「子ども」です。被害対象が「無差別」な現実の犯罪にも適用できる傾向で、相手がだれでもいい場合、単純に「自分より体格が小さく力が弱い」対象が狙われるという感じ。菊原の無線をバックに建物の屋上から屋上に跳んで移動している安斎のシーンはたいへんかっこよいですね。映画なら予告編に使いたい。そしてラストで顔出し解禁のその菊原、わざわざシャツまで着替える意味がよくわかりません。公安の制服みたいなやつってなかのシャツまで指定されてんの?

Line.11 ヒト
つかさの告白と章タイトルが1回分ズレこんでしまった回。ハンスフリップでいうと「男が告白」時点(Line.5)からいっこ進んだぞ。あともういっこ進むとカップル成立だぞ。安斎があらためて「ハーフ」である自分の希少性というか特殊性に思いあたる。で、ここで彼は「むしろ自分は100%鬼なんじゃないか」ってほうに不安を膨らませてしまうんだけど、なんというか、つかさと逢う以前は、わりかし情緒が安定しているほうだったんでしょうね。安定していたっていうか恬淡としていたのかもしれんけど。ジューゴ=村上について、なにごとかを為すためには人殺しもやむを得ないという思想にいたることと、その人殺しの当事者になっていいとまで思えることのあいだには、もう一段階高いハードルがある気がする。まあ人を傷つける、までが仕事でそのあとは鬼が殺すんだからって気持ちだったかもしれないけど、そのあとゼロナナを殺す場合も想定していたのだし。村上はそれを菊原への崇拝で乗りこえたようだけど、それでも自分が殺される側の人、になることは結局いやだったんだな。「身体能力低くない?」「李さん/これにはワケが(P169)」ってあれどんなわけだっけ、とちょっと考えた。つかさが言ってるのはおそらく「鎮静剤を打ったばかり」って意味だけど、自分は「しばらくご飯食べてない」ほうかと思いました。

Line.12 サバイバルタイム
サカキさんとこのビル、暖炉があるんだ!の回。菊原の顔がこわい。もうちょっと巻が進むと端正って感じにもなるんだが、この時点では前回の所業などもふくめて、黒目が小さいっているか白目の面積が広いっていうか、とにかく目がこわい。読者目線だとどうしたって菊原をそうやって見るけれど、ここでつかさも「なんか この人 ーーー怖い(P177)」と感じる。初読ではやっぱり人の害意、悪意に敏感なのだなと思ったけど、菊原の場合はそういう分かりやすい加害者思考を持ってるわけでもないので、ここはなんだろうな。顔はこわいですけどね。顔といえば柳に結果的に「顔がいい」ということを言われて、ちょっと喜んでるふうの安斎がかわいい。なんでこんなにかわいいかねこの子はと思ったら、今年で21歳ってなんか想定より若い。25くらいかと思ってた。このあとの年下どうこうというくだりはもう、もだもだしますね。かわいい。病院で覚醒したゼロナナが森澤の名前を思い出します。P200のカーテンむこうの人影演出はホラー。ラストで安斎の父、環の名が語られる。「ヒトの女性と10年も付き合った男だ(P203)」という述懐から、安斎の母と10年付き合って、その後殺害してしまったのかなと予想していました。

(2017/3/15)


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